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 伊丹の珍しいモノを探しに行った。それが「とっくりん」と「絽刺し」。見たことはあれどよく知らない、聞いたことはあれど見たことない、あるいは見たことなければ聞いたこともない、そんなモノを伊丹で見つけたのだ。なので、紹介していこうと思う。現代風に言うオモローに該当すると思うのだ。ここで「とっくりん」と「絽差し」について是非知って欲しい。

 まずは………「とっくりん」  伊丹都市開発株式会社(旧:タウンセンター)が伊丹のブランドの発展・飛躍のため考えたモノ、それが「とっくりん」。 コンセプトは、動く広告塔。イベントを通してもっと人の住む・来る街、伊丹市民としての誇りと愛着の向上を目指したカタチなのだ。 伊丹都市開発株式会社が黒木テック工業株式会社に依頼しテーマとして設けたのが、「酒文化と食文化が融合した日常観光」。  伊丹にはなんと「朝マルシェ」や「伊丹バル」と日常的なイベントがあり、ここに伊丹ならではを置いたら面白いかも、と計画が始まるのだった。   酒に関するイメージを片っ端からラフ画におこし出来た絵をそれぞれ見比べていく。三輪自転車を改造して後ろに人を乗せながら走る、京都や浅草の人力車みたいな!という案に決定し、酒樽や徳利・桶タイプ、いやいやいっそ屋台風は?等々意見が飛び交う。  そして、最初は桶か?と思いきや酒樽モチーフの「酒ワゴン」が誕生した。

 しかし、デザインにしてみると形が綺麗に見えず縦横のバランスがイマイチと断念。さらに樽は、昔は土葬の際使用され大変縁起が悪いということもあって変更された。  代わりに徳利をデザインに……でも、風の抵抗大丈夫?走れるの?なら窓開けるとか?いやいや、それはもう徳利らしくない、様々な意見が。  「とっくりん」の大前提として、人が乗れる乗り物でなくてはならない。ここでさらに問題が発覚!?二人乗りは法律で禁止されている。ましてや「とっくりん」は三人乗り。なのでイベント時にのみ敷地内だけ走れるよう特別に許可をもらった。  肝心な自転車は伊丹市が用意したのだがまたまた問題発生。その自転車が……届かない!!なんでも、自転車が中国製のためうまく連携がとれず、発注を十一月にしたはずが届いたのは三月、約四ヶ月も待ったのだった。自転車が届かなければサイズが測れず重さも測れず、全体の具体的なイメージが掴めない、等作業が進まなかった。

 デザインした「とっくりん」と伊丹の街並みを写真で合わせながら細かく手直ししていく。  自転車は電動自転車でスピードがもの凄い……バッテリーはいらないかな、いれないで。安全をしっかり確保するため珍しくミラーが付けられている。  「とっくりん」は鉄で出来ており、鉄板の厚さは1.2mm。見た目以上に重たく、人を乗せるため重さ倍増、漕ぎ手はとっても大変。 「とっくりん」は重量制限は数値化するとだいたい150kg、乗れたら大丈夫!メンテナンス時は乗って帰って、また乗って行くがブロックタイルは走りにくいらしい。  現在「とっくりん」の漕ぎ手募集中、伊丹の街をアピールしてみませんか?  面白い企画も随時募集中!

 絽刺し、耳慣れない言葉だと思われる。  絽刺しとは、中国の三大刺繍の一つとして数えられており平安時代に入ってきたもの。今で言うところのキャンバスワークである。絽刺しは関西ではあまり浸透しておらず、日本中でも数限られた人達によって継承されている。  今回取材した瓦田さんは伊丹で絽刺しの教室を個人で開いている方で好奇心の元、行って来た。瓦田さんは元々油絵をしており、デザイナーを目指していたらしい。が、上手くいかず断念しその内糸で絵を描いてみようと思いたった。そして、そこから50年間糸で一つ一つ作品を手掛けてきた。  今では少しずつ生徒が増え、生徒達からエネルギーをもらっており生徒達から学ぶこともあるそうだ。絽刺しは何にでも使えると、万能であると、言う。生徒達のアイデアで試行錯誤しながらしおりを作ったと聞いた。  アプリコットのような使い方や、ブローチなどの小物や、既存の絵を描いて飾ったり、着物の帯・留袖、更には風炉先屏風と自分の発想でどこまでも進化する、思い付いたモノを何でも、絽刺しは正に“無限大の可能性”と言えよう。

 作品に使用されている糸は越後屋からわざわざ取り寄せているらしい。“色”には特に強いこだわりがあり、様々な“色”を取り入れるため糸のバリエーションは豊富。金・銀の糸は本物の純金・純銀で、糸が放つ輝きは他の糸とは違い圧巻される。  瓦田さん自慢の糸を実際見せて頂いたが同系色でも色の濃度が全く違った。あまりにも本数が膨大なため、“色”に関して特に気を使っていることを訪ねた。すると、上品な物になるよう心がけているとの返答が。更にもう一つあって何か一色アクセントとなる色を決め見た目をより華やかにするのもコツだと言っていた。  瓦田さんの作品は基本的に人に譲るのだが、時折展示会なども行うそうだ。

一つの作品を作るのに小物品でもおよそ2・3日かかり、それより大きくなると年単位かかる。作品の中には生徒さんとの共同作品もあるらしい。  絽刺しは根気のいるモノ、根気のない人はオススメ出来ないが得られる達成感は計り知れないほど大きいだろう。だがしかし、より良い作品というのは「長い時間をかけてこそ」出来る。ゆっくりのびのびと自分のペースで完成を目指せる、ということは利点ではなかろうか。  瓦田さん曰く、根気が続いても絵心がないと上手く縫えない、調整が出来ず形が歪になってしまうとも。それでもやってみたいという人は少なくなく、瓦田さんは生徒と悩みながら教えつつ完成を目指す。

 絽刺しとは何か、瓦田さんに聞いてみた。素敵な笑顔で「自分の生きがいで、幸せ。絽刺しのおかげで寂しさを感じたことがないし、 周りの人も(作品を)あげたら喜んでくれるから、そこからつながりが生まれて嬉しい」と語った。  さらに続けて「だから今の若い子は、若い内に何か一生打ち込めるモノを持つべき」と人生のアドバイスを頂いた。  どんなことでも一生懸命になれるものを持つ人の人生はいつだって晴れやかなのだ、我々はひしひしと感じた。

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