本好きが選ぶおすすめ文芸本
5選!家族・恋愛・友情物語!

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皆さん、読書は好きですか?読書をすると、自分に合わない本だと思っても洗練された文章や表現方法に感銘を受けることもあるはずです。2019年本屋大賞第2位を受賞した小野寺史宜さんの『ひと』や『かがみの孤城』でも有名な辻村深月さんの『島はぼくらと』や実写化された作品も多い、宇山佳佑さんの『桜のような僕の恋人』など読書好きの私が選んだ、おすすめ文芸本5選です。家族、恋愛、友情物語を集めました。

余命10年

余命10年【残された時間】

20歳の時に不治の病となり、「余命10年」という現実を突きつけられた茉莉という女性が主人公の恋愛小説です。学業も、就職も、恋愛も、すべて諦めて、10年後の「その日」を待ちます。 退院当初は塞ぎ込んでいた茉莉ですが、友人に誘われてコスプレや同人活動に参加したのをきっかけに、「人生楽しんだ者勝ちだもの!」と、やりたいことや楽しいことに果敢に挑戦していきます。 しかし、決して手を出してはいけないこともありました。それは「恋愛」。余命10年の自分は、恋愛だけはしてはいけないと誓っていたのに、茉莉の前には愛する人が現れてしまいます。 小学校の同窓会で出会った真部和人。温和で優しい和人に、茉莉は「いけない」と思いながらも惹かれてしまう。茉莉は自分の余命が短いことや、病気のせいで働けないことを隠し、普通のOLと偽って和人と恋人同士になります。 だが、病魔は茉莉を見逃してくれない。いよいよ体調が芳しくなくなり、茉莉は和人に真実を告げ、別れることを決意します。そして遂に、「最期の日」はやってくる。

感想

小説の冒頭に書いてある一文。「あと10年しか生きれないとしたら、あなたは何をしますか。 長いと思い悠然と構えられますか。短いと思い駆け出しますか。あと10年しか生きれないと宣告されたのならば、あなたは次の瞬間、何をしますか。」 この言葉を読んで、自分自身はどうするのだろうかと考えさせられながら読みました。読み終わってみて思ったのは、今を精一杯生きていきたいということです。10年はあっという間な気もするし、長い気もします。その間に何をするかは本人次第です。 私だったら、彼女のように愛する人との別れを選択できたのかと考えます。時に前を向いて歩み出すには、大切な思い出を捨てなければならない事があるかもしれない。しかし、その日々の証は忘れることも、消えることもなく、刻まれていることを教えてもらいました。 明日を迎えられる事の大切さ、今を精一杯生きていかなければならないことも2人から教えてもらえた気がします。

桜のような僕の恋人

桜のような僕の恋人【切なくも儚い恋物語】

夏ももう終わりかけていたある日の午後、朝倉晴人は髪を切りに美容室を訪れました。しゃれた店は好きではありませんでしたが、値段の安さに引かれてその店に決めます。そこで出会った美容師の美咲に一目惚れして、2人の恋は始まります。それから晴人はその美容室に通い詰め、少しずつ彼女と打ち解けていきます。 時はたち、晴人は美咲をデートに誘おうとタイミングを伺います。そしてその焦りが事件を引き起こします。会話の途中で急に振り向いた晴人の左耳たぶをチョキンと美咲は切り落としてしまいます。お詫びに何でもすると必死に謝る美咲に、晴人は「じゃあ、僕とデートしてください」と伝え、2人はお花見デートに行くことになりました。しかし実を言うと美咲はあまり乗り気ではなく、でも流石に断れないと思い行くことにしました。デートの途中で晴人のとある嘘が発覚します。晴人はプロのカメラマンだと自称していましたが、実はすでにカメラマンの夢は諦めていて、今はただのフリーターになっていました。そんな晴人の嘘を知った美咲は自分が「職業で人を判断するような女」と思われていたことに激怒します。そして、自分の夢をあっさり諦めてしまった情けなさにも腹を立てますが、晴人はそれを自分への激励と誤解してしまいます。しかし、その嘘を現実にしようと晴人は決意します。 それからも晴人は美咲にアタックし続け、やがて2人は恋人同士になります。しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。美咲は重い病気にかかってしまいます。それは凄まじい勢いで老化が進んでいく難病でした。年老いていく自分の姿を晴人に見られたくなくて、美咲は彼の前から姿を消してしまいます。

感想

愛し合った2人が、難病の発症という理不尽な運命のせいで引き裂かれ、幸せを奪われてしまう。そう聞いただけでは救いようのない、可哀想な物語にさえ思えてしまいます。しかし、互いが互いを思うからこその苦悩、愛し合っているからこその悲しみ、そういった感情をこの作品は見事に書ききっています。 また、『桜のような僕の恋人』という題名は、正にこの物語を端的に言い表しています。通常とは比べものにならないほど、あっという間に老いていってしまう美咲の姿は、その名前も相まって、美しく咲いてもほんの数日で儚く散っていく桜そのものでした。 物語の終盤で晴人は、美咲が「早老病」を発症していたことを知ります。恋人が病気に苦しんでいる間、何もできなかった自分を心の底から悔やみますが、今からでも美咲に自分がしてあげられることはないかと、晴人は考えます。それはカメラでした。美咲があの日説教ながらも「頑張れ!」と自分を奮い立たせてくれたもの。晴人は、最初のヘタレ具合から、ここまで立派に成長を遂げた晴人をみて感動しました。晴人がどんな思いで、どんな写真をカメラに収めたのでしょうか。

島はぼくらと

島はぼくらと【4人それぞれの形】

主人公は、高校生の男女4人。主に物語の視点であり、母と祖母と暮らす、純粋でのびやかな女の子の朱里。女優みたいにおしゃれな、島の網元の娘の衣花。おとなしい、演劇好きの男の子の新。見た目は、イケメンだけど不良っぽい、I ターン族でリゾートホテルの息子の源樹。 瀬戸内海の小さな島、冴島。島の子どもは、いつか本土に渡ります。まず、島には高校がないのでフェリーで本土の高校に通います。島の母親は、子離れの時期を強く意識せざるを得ません。15歳または18歳で、子どもと離れて暮らすことになるからです。 4人はそれぞれ、島を出ることへの将来の不安や、島に残ることの葛藤など淡い恋と友情、大人たちの覚悟など4人の旅立ちを描く。

感想

初めは、島暮らしに少し憧れを持っていました。しかし、この作品を読んで島暮らしの人だからこその葛藤や苦しみがあることがわかりました。島で暮らすという運命を生まれながらに背負っているもの、背負わなければならなくなったものにとって、島の習慣という名の部屋に閉じ込められているような感覚に陥りました。そしてこの部屋の中では、閉鎖社会、友情の断絶、故郷への執着、自然との戦いなどを様々な問題が生み出されています。 誰しもこの幸せな時間がずっと続けば良いと思うことがあると思います。しかし、全てのことはいつまでも同じではないし、人間同士もいつまでも一緒ではない。あらゆるものは、移ろい、変化していく。しかし、その変化は、未来への架け橋にもなることを教えてくれました。 最後には、この部屋を自由に出たり、入ったりすることができるようになる。そんな感覚を持つことができました。 また、島の暮らしの経験はないけれど、一緒に経験してきたような感覚になりました。そして、別れは悲しいことだけではなく、これからの未来への一歩になることのように勇気をもらえる作品です。

四月になれば彼女は

四月になれば彼女は【愛するとは、愛されるとは】

4月、初めて付き合った彼女ハルから手紙が届きます。そのとき僕は、愛しているのかわからない人と結婚を決めていました。 天空の鏡・ウユニ塩湖にある塩のホテルで書かれたそれには、恋の瑞々しいはじまりとともに、ハルが現在旅をしているという異国の情景や、大学時代の僕との思い出が綴られていました。そして毎回、その時々にハルが撮ったという1枚の写真が同封されていました。 ある事件をきっかけに別れてしまった彼女は、なぜ今になって手紙を書いてきたのか。時を同じくして、1年後に結婚を控えている婚約者の弥生とは、お互いの行動のタイミングは把握しあっている。コミュニケーションは滞りなく運ぶ。居心地も悪くなく、結婚をするのは自然の流れでした。そんな僕と弥生の関係が、ハルからの手紙をきっかけに、変化し始めます。彼女の妹、職場の同僚の恋模様にも、劇的な変化がおとずれます。 愛している、愛されている。そのことを確認したいと切実に願う。けれどなぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去っていってしまうのか。失った恋に翻弄される12カ月がはじまります。

感想

学生のピュアな恋愛とは違い、大人の恋愛を描いた作品でした。一瞬の間だったとしても、人生で一番愛した人を選ぶのか、それとも恋愛感情はもう無いが、長年連れ添った相手を選ぶのか。この2つが物語のメインテーマです。 これから先の人生で隣にいる人が、愛する他人なのか、人生を寄り添うパートナーなのかは人それぞれだと思います。この作品は、この2つの立場の相手が同時に現れた先の物語であり、選択の物語です。 そして、「愛とは」を人間の奥深くまで追求していきます。人を愛して、愛されるピークみたいなものは一瞬で、やがて過ぎ去っていく。現実でもそうであるケースのほうが多分圧倒的に多くて、でも人間はなぜかそれを心のどこかで分かっていながら「愛」を求め続けているのだと思いました。 この物語で「わたしは愛したときに、はじめて愛された。それはまるで、日食のようでした」という言葉があります。日食とは、月と太陽が重なる一瞬の出来事のことを言います。まさにこの言葉通り、日食のようであるからこそ、特別であること。その一瞬を何よりも大切にしなくてはいけないこと。等しく重なるのは一瞬であることを教えてもらえる作品だと思います。

ひと

ひと【人と人の繋がり】

鳥取出身の柏木聖輔は高校時代に料理人の父親を事故で亡くし、そこから女手一つで母親に育てられます。母親の勧めもあり、東京の大学へ進学した聖輔でしたが、大学2年生の秋、今度は母親を突然死で失います。奨学金を返せる自信もない聖輔は、大学を中退し働くことを決意しますが、仕事は決まらず、ただ時間だけが過ぎていく毎日でした。 ある日空腹に耐えきれず立ち寄った商店街の総菜屋で、聖輔は他のお客さんにコロッケを譲ったことがキッカケで、その店「おかずの田野倉」でアルバイトを始めます。 おかずの田野倉の店主や従業員との信頼関係、たまたま店に立ち寄った高校時代の同級生との再会、大学の友人たちとの変わらぬ付き合い、父の足跡を辿った先で会った父の元同僚、当時の店のオーナーとの出会い。 多くの「ひと」との関わりが、聖輔の人生を動かしていきます。

感想

この作品では、1人の秋、1人の冬、1人の春、夏と4章に分かれています。この通り、自分以外の家族を亡くし本当の1人きりになってしまった聖輔も、徐々に1人きりではないことに気づいていくことと同じように、今まさに孤独を感じている人へ届けたい作品です。 また、そんな聖輔を応援したいと手を差し伸べてくれる「ひと」もいれば、聖輔の元へお金をせびりに来るのもまた「ひと」です。そんな、聖輔の人生のうち、1年間を切り取ったこの『ひと』という作品は、血の繋がりよりも心の繋がりが大切だということを教えてくれる作品です。 また、この作品は最後の一行の一言のために、聖輔の1年間はあったと私は思っています。聖輔が、おかずの田野倉で働き始めたのも、コロッケを譲ったのがきっかけ。バンド時代に大切にしていたベースをあげてしまったり、親戚がお金を無心してきたら、お金を渡してしまう。 そんな、聖輔がこれだけは譲れなかったもの。それが、最後の一行の一言に詰まっています。 本を読んだ後は、これ以上にぴったりとくるタイトルはないと感じることができると思います!

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